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キッチンに立つ背中に問いかける。
「あの、足立さんは…?」
「少し話してからタクシーに乗せました。」
「…大丈夫でしたか?」
私が心配する必要はないのかもしれないけど、想さんに手を引かれて店を出る時見た彼女は多分、泣いていたから。
振り向いた想さんは、「はい、大丈夫だと、思います。」と言いながら歩いてきて、両手に持ったコーヒーカップをソファの前のテーブルにコトンと置いた。
「彼女ももう、大人ですから。」
そう言って頷く想さんは、まるで自分に言い聞かせているようだ。
暫く黙ったまま二人並んでコーヒーを飲む。
口を開いたのは想さんで。
「何でも聞いて下さい。」
微笑んで、でもちょっと困ったように。
「あの、」
「はい。」
「今日は店長は?お休みだったんですか?」
「え?、あ、はい、いえ、用事があると言って、7時頃に先に帰りました。」
拍子抜けしたように答える想さんの表情はレアかもしれない。
「想さん。」
「はい。」
「室長って…?」
「あ、え、はい…」
私の小さな悪戯心に気付いたのか、想さんは「鈴さんは…」と呟いてクスッと笑った。
悪戯というより、意地?強がり?で、本当に聞きたい事は少しだけ後回し。
でも想さんが笑ってくれたからいいかなと思う。
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