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動けなかった。
想さんが伏せていた目を上げてじっと私を見つめる。
綺麗な二重の、吸い込まれそうな瞳の色。
鎖骨の辺りにあった熱さがふっと消えて、その指先が頬に帰ってきた。
「鈴さん、貴女はとても、魅力的です。」
もう片方の手も添えられて、私の両頬を包む。
想さんの顔が近付いて、私が目を閉じると、柔らかな感触が今日作ってしまった小さな傷の辺りに触れて離れた。
思わず開けた目の前で想さんが微笑む。
「こういうちょっと危なっかしい所も、全部好きですよ。」
「…っ」
そして想さんの顔が傾けられ、何も言えないうちに私の唇は塞がれた。
想さんの初めてのキスは、想さんそのもののように、私の唇に優しく触れて、柔らかく包んで、ゆっくりと離れていった。
それから私の体は引き寄せられて、想さんの腕の中にすっぽりと収まった。
うるさかった互いの鼓動が少し落ちついた頃、私の髪を撫でていた想さんが話し出す。
「…聖良が言っていた社長との約束は、気にしないで下さい。僕が本気なら、何も言わないと思います。」
だから、と、私を抱く腕にきゅっと力を入れる。
「次に会う時には、返事をいただけますか?」
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