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……?
顔、凝視されるのはちょっとツラいのですが。
「何か…?」
「メガネ…大丈夫だったみたいだね。顔に傷とか付かなくて良かった。」
…もう考えないようにしてたのに。
チラシを見ていた時とはまた違う、少し優しい感じの表情の課長。
「あ…、はい。あの、ありがとうございました。あのまま転んでたらホント危なかったです。」
頭を下げて視線を避けた。
「いや、俺も思いっきりドア引いたから…。悪かったね。」
「いえ…。」
「………」
「………」
「…じゃあ、お疲れ様。」
「はい、お先に失礼します。」
出ていく課長の背中を見送って、大きなため息をつく。
…心の中で危険信号が点滅してる気がする。
課長は若く見えるけど、多分30代後半だと思われる大人の男性で。
子供服には慣れてないみたいだから子供はいないかもしれないけど、普通に考えたら妻帯者。
誰かに聞いてみればわかる事だけど。
結婚してないにしても、あれで彼女がいなかったらおかしいと思う。
だから、このドキドキは、今日だけのものにしておこう。
うん、そうしよう…。
社員棟に続く通路の窓から見える空は暮れて沈んだ藍色。
「急がなくちゃね。」
私は自分に発破をかけて少し浮腫んで怠い足を早めた。
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