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…少しだけ違う笑顔を見た事がある。
それも初めて想さんと会った日に。
その頃ちょっとしたコトで落ち込んでる私の気持ちをアゲようと笙子が誘ってくれた想さんの歓迎会。
初めて想さんを見た時、格好良い男の人というより、綺麗なひと、だと思った。
私が憧れているくっきりとした二重瞼のみならず、その目の中の神秘的な瞳、柔らかそうにウェーブした髪に目を奪われた。
「…羨ましいです。私も藤野さんみたいな目や髪だったら良かったのに。」
酔っ払いの女の、今から思えばデリカシーの欠片もない戯言。
想さんは、ふっと笑った。
「僕は、ずっと…鈴さん?みたいな真っ直ぐな黒髪と黒い瞳が欲しかったです。」
優しいけれど、少し苦しそうな笑顔だった。
あっ…という、気まずい顔をしただろう私に想さんは……
「鈴さん?」
「あ、はい。」
「お待たせしました。かけてみて下さい。」
私はかけていたメガネを外してカウンターの上にコトンと置いた。
想さんが布張りのトレイから取り上げて差し出したメガネを受け取ってゆっくりとかけてみた。
「はい、大丈夫…かな?」
「少し緩いですか? 」
失礼します、と言った想さんは、耳へのかかり具合を見るためにカウンター越しに身を乗り出して私の耳元を覗き込む。
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