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「…あれ?そのメガネ、」
私は想さんに調整してもらったメガネをそのままかけていた。
「うん、レンズ入れ替えて復活しました。やっぱりかけ心地がいいんだ、これ。」
「…うん。良かったね。」
笑顔の私を笙子はもう一度ふわりと抱きしめて背中をトントンとしてくれた。
笙子はこのメガネを好んでかけていた頃のあれやこれやを知っているから。
「想、外のシャッター閉めてくれる?お二人さんも、そろそろ行くよ。」
閉店時間の8時よりちょっと前だけど、お客様もいないし、と店長。
「は~い。」
「そう言えば、山本さんと紗理奈ちゃんは?」
「二人とも用事があるって。今日は急だったからね。また今度って。」
山本さんはベテランのパート店員さんで5時までで、紗理奈ちゃんは入社三年の可愛い社員さん。今日は早く上がったみたい。
それぞれ家庭があったり彼氏がいたりで忙しいらしい。
店の戸締まりをしっかりしてから、私たち四人は大通りから少し入った路地裏にある、行きつけの焼肉店に向かう。
「鈴、今日は車で送ってくから飲んでもいいわよ。」
「ホント?ありがと。じゃあ少し飲もうかな~。マッコリがいいかな。」
先を行く店長と想さんの背中を見ながら笙子と歩く夜の道。
やっぱり時折冷たい風が吹くけれど、さっきより寒くなかった。
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