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…それは三年程前の事。
「すみません。」
「はい、いらっしゃいませ。」
夕方からベビー用品担当の人が足らなくて、手伝いで売場に立っていた私に声を掛けてきたスーツ姿の若い男性のお客様2人組。
会社の上司の出産祝いを買いにきたのだが、良く分からないので見て欲しいとのこと。
売場を案内しながら、声を掛けてきた人から少し離れた所にいるもう一人の男性に移した私の視線はそこで止まってしまった。
胸がドクンと鳴る音が聞こえたような気がする。
…川口先輩?
けれど私は声にも表情にも出さず…出さないように努力して接客を続けた。
だって覚えてる筈が無い。
高校一年の時の片想い。
たまたま同じ図書委員会になった三年生の先輩に殆ど一目惚れだった私。
だけど先輩の横にはいつも、大人っぽくて綺麗な同学年の彼女らしき人がいて、片想いの私が先輩と言葉を交わしたのも数えられる位のもの。
サラサラの髪が少し目にかかる、物静かな横顔をただ見ているだけだった。
普通だったら私だって忘れてた筈だけど、失恋が決定的になったあの日見た光景が、淡い恋心と一緒に記憶の中にしっかりと残っていた。
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