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校門を出るところでペンケースを忘れたのに気付いて慌てて戻った秋の夕暮れの図書室。
窓際の机の上にあるそれに気付いて足を進めた私の目に飛び込んできた、本棚に隠れて抱き合う2人の姿。
窓を背にした男子の表情は沈む西日が作る陰で見えなかったけど、浮かぶシルエットですぐに判った。
先輩…と、彼女。
彼女の後頭部を押さえている手と、腰に回された腕。
固まって佇む私に気付いたのか先輩の頭が少し動いて…此方からは見えない目と視線が合ったような気がした。
私は踵を返して走り出した。
ペンケースを残したままで。
翌朝早く図書室に行くと、私のペンケースは貸し出しカウンターの上に置かれていた。
その日から私はもう先輩を見るのをやめた。
もう可能性が無い事がわかったから。
こうして片想いのまま、それでも私にとっては強い印象を残して終わった淡い恋だった。
「…ありがとうございました。」
やっぱり先輩は気付かなかったな…と思いながら、お祝い用に包んだ品物を渡し、懐かしさを胸に背中を見送った。
その数日後の日曜日。
「…田上さん。田上鈴さん、だよね。俺の事、覚えてる?」
「川口先輩…」
もう一度、今度は1人で姿を見せた先輩は、驚きつつも頷いた私を見て嬉しそうに微笑んだ。
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