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先輩の手が私のメガネにかかり、私は思わず目を閉じた。
ゆっくりと外される黒の細いフレームのメガネ。
そっと目を開けると、私をじっと見つめる先輩の顔があった。
「もう一度、その目で俺を見て欲しい。」
そう言って先輩は私にキスをした。
そうして始まった先輩との、私にとっては二度目の恋。
性急に深まる先輩との関係に戸惑いながらも、熱に浮かされたように私はそれを受け入れた。
今になって思えば、私には最初から少し荷の重い恋だったのかもしれない。
先輩が求めた高校時代の記憶の中の私と、今の私が先輩に与えられるものは、多分イコールにはならなくて。
そして付き合って初めて判った、普通より少し強いと感じる先輩の独占欲みたいなもの。
それに業種の違いからなかなか休日が合わず、思うように会えない状況が拍車をかけた。
一度は私がアパートで一人暮らしを始めた事で、一緒にいる時間が増やせて、穏やかな日々もあった。
ただ入社五年目の私には任される仕事が増え、残業や出張も増えた。
『今日も会えないの?』
『誰と出張?男?』
『飲み会?駄目。』
私は時々嘘を吐くようになった。
男性バイヤーとの出張は1人だと言い、男性社員との残業は大人数だと伝えた。
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