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先輩の機嫌が悪くなるのが嫌だったし、嫌われなくなかったから。
だけど嘘もなるべく吐きたくないから、プライベートでは男性と関わるのを避けて、仲良くなった同年代の仲間の誘いも断る日々。
…多分その頃はもう一杯一杯だったんだと思う。
熱が出てフラフラと帰る私を気遣った北島が、強引に車に乗せてアパートまで送ってくれたのを先輩が見てしまった夜。
手を挙げたりする事はない先輩は、冷たい言葉と視線を私に投げつけた後、いつもするようにあくまでも優しく私を抱いた。
そして囁く。
『そんな目で他の男を見るなよ。』
…一体私はどんな目をしてるんだろう?
熱で朦朧とする意識の中で繰り返される愛撫を受けながら、ぼんやりとそんな事を思った。
先輩が帰った後、全身に残された赤い印を見て私は泣いた。
そして、私の体は先輩を受け入れる事が出来なくなった。
先輩の事は嫌いになれないけれど、もう無理だと思った。
泣きながら別れを告げる私に、やっと首を縦に振ってくれた先輩が表情を歪めながら言った言葉。
『鈴が俺を忘れても、俺はずっと忘れないから。』
最後の言葉さえ私を縛る。
そして、後日談。
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