1645人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
「…去年さ、想さんの歓迎会の少し前に、モールで先輩にあったでしょ?」
「…うん。今思い出しても腹立つわ。」
「ふふ…。あの時、涙は出なかったけどやっぱり落ち込んで…。先輩にあんな穏やかな顔をさせられなかった私が悪かったのかな、とか、色々ね。」
「…鈴さぁ、」
ハンドルを握る笙子が溜め息を吐く。
「あ、今はもうそんな事思ってないよ。…だけど、あの頃は、ね。自分の顔、特に目が大嫌いだった。」
それで想さんにあんな事言っちゃった私。
「へぇ、そんな話してたんだ。」
「うん、それで、多分気まずい顔した私に、想さんが笑って言ったんだ。…お互いに無い物ねだりですね、って。」
「…想さんが?」
「うん。ちょっと悲しそうな笑顔だった。でね、私…その夜、家に帰って、泣いたんだ。何故か分からないけど。」
「…すっきりした?」
「うん。だいぶね。無い物ねだりしても仕方ないなって。…終わった事だし、たかが恋が一つ上手くいかなかっただけだって。」
それから恋愛はまだする気にはなれなかったけど、先輩との事は吹っ切れた気がした。
取りあえず今頑張れる事、差し当たって仕事を頑張ってみようと思えた。
「想さんて、不思議なんだよね…。」
・
最初のコメントを投稿しよう!