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「私、そろそろ帰るね。…あれ?」
テーブルに置いた筈のメガネが無い。
辺りを見回して、まさか落としたのかと屈んで床を覗くが見当たらない。
頭を上げてふと横に向けた目線の先に、北島の手に持たれたメガネがあった。
「ちょっと。私のメガネ。」
私がメガネを取ろうとすると、すぃっと北島の手が上がって、伸ばした私の手は行き場を無くす。
「何…?北島っ。」
「なあ…」
見上げると北島は私のメガネを天井の照明に翳すようにして眺めている。
「飲みに行く話はどうなった?」
「…え?」
突然の、今の状況に関係ない話に戸惑ってすぐに反応出来なかった。
「えっと、…ごめん、今は飲む気分じゃないから、また今度話そ。それよりメガネ、返して。」
私は椅子から立ち上がって、北島が持ったままのメガネに再び手を伸ばした。
「…俺と二人で飲むのは嫌なのか?」
「そんな事言ってないでしょ?」
不機嫌そうな態度でメガネを返そうともしない北島に、段々とイライラしてくる。
背伸びしても届かないのが悔しい。
「そんな事よりメガネ返してよっ。」
思わず強い声を出すと、メガネを持った手は上げたまま北島が私の顔を見下ろしてきた。
綺麗なラインの眉は少し寄せられ、二重の目がじっと私を見てる。
強い視線に一瞬怯む。
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