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……ダメッ。
私は動かせるようになった両手で、北島の肩と胸を思い切り突いた。
北島が一歩後ろに退いて唇が離れる。
ガタガタッと音がしたのは北島の脚がテーブルに強く当たったようだ。
「…っ…」
私はもう一度強く北島の胸を押した。
私の頬とうなじを掴んでいた手を離した北島と目が合った。
いつも自然な感じに流されている北島の髪が乱れて、思いの外長い前髪の間から覗いた目の光がなんだか怖くて…。
「…きたじ…ま?」
声が震える。
その目がハッとした表情と共に揺れて、北島がもう一歩後ろに下がる。
「俺…、…ごめん。」
苦しそうな声で言った北島は背中を向けると、足早に休憩室から出て行った。
ロッカーに寄りかかったまま、呆然とその姿が通路に消えるのを見ていた私の耳に聞こえた声。
「お、まだいたのか?」
「…はい。お疲れ様です。」
通路で出会ったのだろう、課長と北島の声。
「ああ、北島…」
課長が呼び止めて何か話しているようだ。
…このままじゃ変に思われる。
私はまだガクガクしている脚になんとか力を入れて動くと、北島が当たってズレたテーブルとイスを元の位置に戻した後、開けたロッカーの扉の陰で、手に持ったままだったメガネをかけた。
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