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「あれ?田上さんもまだいたんだね。」
背中に声が掛けられて、私はキュッと心に力をいれて課長に顔を向けた。
「はい。お疲れ様です。」
「帰るの?」
「はい。」
「今北島も帰ったけど、一緒じゃないんだ?」
課長がチラリと通路の方を見た。
「…あ、はい。方向違いますし。」
パタンとロッカーの扉を閉める。
「田上さんは電車?」
「はい。隣の駅なんです。」
「…そう。気を付けて。」
「はい。お先に失礼します。」
…うん、普通に話せた。
と思ったら踏み出した足がテーブルの脚を蹴ってガタッと音が響き、膝がガクッとなった私はテーブルに手を着いた。
「おっ、大丈夫か?」
課長が思わず手を伸ばすのを制して、
「だ、大丈夫です。ははっ。」
と笑って誤魔化す。
「田上って…。」
課長がクッと笑って、そして呼び捨て。
「…ホント、気を付けて帰れよ。」
「はい…。」
恥ずかしい、けど、なんだか…。
お辞儀をして出て行こうとする私にまた課長の声。
「あ、そうだ。来週のK社の展示会、俺も一緒に行くから、よろしく。」
「あ、はい。わかりました。では…。」
私物バッグを抱えた私はやっと休憩室を後にする事ができた。
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