5 動き出す

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「あれ?田上さんもまだいたんだね。」 背中に声が掛けられて、私はキュッと心に力をいれて課長に顔を向けた。 「はい。お疲れ様です。」 「帰るの?」 「はい。」 「今北島も帰ったけど、一緒じゃないんだ?」 課長がチラリと通路の方を見た。 「…あ、はい。方向違いますし。」 パタンとロッカーの扉を閉める。 「田上さんは電車?」 「はい。隣の駅なんです。」 「…そう。気を付けて。」 「はい。お先に失礼します。」 …うん、普通に話せた。 と思ったら踏み出した足がテーブルの脚を蹴ってガタッと音が響き、膝がガクッとなった私はテーブルに手を着いた。 「おっ、大丈夫か?」 課長が思わず手を伸ばすのを制して、 「だ、大丈夫です。ははっ。」 と笑って誤魔化す。 「田上って…。」 課長がクッと笑って、そして呼び捨て。 「…ホント、気を付けて帰れよ。」 「はい…。」 恥ずかしい、けど、なんだか…。 お辞儀をして出て行こうとする私にまた課長の声。 「あ、そうだ。来週のK社の展示会、俺も一緒に行くから、よろしく。」 「あ、はい。わかりました。では…。」 私物バッグを抱えた私はやっと休憩室を後にする事ができた。 ・
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