1645人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、送って頂いてありがとうございました。」
デパートを出た時にはまだかなり動揺していた気持ちも、想さんの思いがけない行動のせいか少し薄れた気もする。
街灯の明かりの下、お礼を言う私に想さんは困ったように微笑んだ。
「…僕が勝手にしたことですから。それに走ったり電車に乗ったりして、良い気分転換になりました。」
「でも、寒いし遅い時間になってしまって、ごめんなさい。」
改めて言うと一段と感じる風の冷たさ。
「…今日の鈴さんをひとりで帰したくなかったんです。」
ドキッとした。
「ど…して?」
「前にも言いましたが、鈴さんは僕にとって大事な人ですから。」
…わからない。
「…では行きますね。」
「はい。…気をつけて。」
「はい、おやすみなさい。」
「おやすみなさい…。」
いつもと変わらない笑顔のまま背中を向けた想さんが来た道を戻って行く。
シルエットが角を曲がるのを確認して、私は大きく息を吐いた。
…わからない。北島も、想さんも。
「…帰って寝よう。」
・
最初のコメントを投稿しよう!