6 雑踏

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気が重かった理由のひとつ。 丸一日貝塚課長と一緒にいる事。 展示会場では風間バイヤーたちと一緒で良かった、と思ってたのに。 これじゃ、却って…。 化粧室の鏡の中、口紅を塗った自分の唇を見つめる。 …北島のバカ。 ひとつ息を吐いて表情を引き締めた。 「じゃあここで。」 K社を後にして四人で戻ってきた原宿駅前。 もう一社寄る所があるという風間さんたちに課長がそう言った。 「俺たちちょっと表参道でも見て行くから。」 「そうね、せっかく来たんだし。」 …まあそうだよね。色々参考になるし。流行とかディスプレイとか。 私も出張の時はそうしてる。でも… 「田上さん。」 「あっ、はい。」 急に声をかけられて風間さんを見るとにっこり笑っていた。 「貝塚課長の事、よろしくね。」 「え?」 「子供服については田上さんの方が先輩だから、フォローしてあげてね。」 …あ、一瞬びっくりした。 「はい。」 「もう世話になってるよ」 課長が笑う。 「じゃあ、田上さん、またね。」 五十嵐さんとも挨拶を交わし、改札に消える二人を見送った。 ・
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