1645人が本棚に入れています
本棚に追加
気が重かった理由のひとつ。
丸一日貝塚課長と一緒にいる事。
展示会場では風間バイヤーたちと一緒で良かった、と思ってたのに。
これじゃ、却って…。
化粧室の鏡の中、口紅を塗った自分の唇を見つめる。
…北島のバカ。
ひとつ息を吐いて表情を引き締めた。
「じゃあここで。」
K社を後にして四人で戻ってきた原宿駅前。
もう一社寄る所があるという風間さんたちに課長がそう言った。
「俺たちちょっと表参道でも見て行くから。」
「そうね、せっかく来たんだし。」
…まあそうだよね。色々参考になるし。流行とかディスプレイとか。 私も出張の時はそうしてる。でも…
「田上さん。」
「あっ、はい。」
急に声をかけられて風間さんを見るとにっこり笑っていた。
「貝塚課長の事、よろしくね。」
「え?」
「子供服については田上さんの方が先輩だから、フォローしてあげてね。」
…あ、一瞬びっくりした。
「はい。」
「もう世話になってるよ」
課長が笑う。
「じゃあ、田上さん、またね。」
五十嵐さんとも挨拶を交わし、改札に消える二人を見送った。
・
最初のコメントを投稿しよう!