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緩やかなスロープを下りながら、私の目線はずっと吹き抜け部分の大きな階段中央に設置されたクリスマスツリーに。
先日TVの画面に映っていたもの。
やっぱり実際に見る方が綺麗だな。
「足元気を付けろよ。」
隣で笑いを含んだ課長の声がした。
近くまで来て立ち止まり並んでツリーを眺めた。
手はまだ繋がれたまま。
課長はどんな気持ちでいるのか、その横顔は全くいつもと同じに見える。
私は心の中でもう一度、「北島のバカ」と言った。
殆ど八つ当たりのようなモノだけど。
本意ではなかったけれど、あの突然のキスと、私を見たあの目に、自分が女だって事を実感させられてしまった。
しばらくわざと見ないようにしていたもの。
…だけど、ホントは気付いてた。
ひとりの男として課長に惹かれてる、私はやっぱり女なんだって。
ごめんね、北島。私は、この手が……
「そろそろ行こうか。」
…一瞬、何かが胸を過ぎった気がしたけれど、手を引かれて促されて歩き出す。
「綺麗だったけど、田上も俺みたいなオジサンと見てもな。」
「…課長はオジサンじゃありませんよ。」
「じゃあ、何?」
「…お兄さん?」
苦し紛れ。
「はは、どっちも微妙。」
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