6 雑踏

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「課長だって、本当は大切な人と一緒に見たいですよね。」 …ビルの外に出ながら、勢いで聞いてしまう。 少し間があって、 「…ああ、出来ればそうしたい。」 そう答えた課長の声は静かで、今まで聞いた中で一番優しい声だった。 …痛いな、胸。 風間さんはあんな風に言ってたけれど、やっぱり課長には大切にしてる女性がいるんだ、と感じた。 俯いた私は、メガネをかけ直す振りをしてフレームに触れる。 …うん、大丈夫。 上げた顔は笑顔の筈。 「今日は私でごめんなさい。でも本番は来月ですものね。」 「…そうだな。田上も、だろ。」 私は笑ってはぐらかして、「うちの売場ももっとクリスマスっぽくした方がいいですか?」なんて、話を変える。 それからは仕事の話をしながら駅まで戻った。 課長のそのひとには悪いと思ったけど、私は課長の手を離さなかった。 今日だけ、もう少しだけ。 駅について、手を離した。 課長は腕時計を見て、上着の内ポケットからカードケースを出すと、「上野まで行って特急に乗って帰ろう。」と、少し疲れたように笑った。 そういえば寝不足だって言ってたな。 何のDVD見てたんだろう…なんて考えながら、改札を抜ける課長の後を追った。 ・
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