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「…私も初めて会った時は驚きました。」
「彼とも、長いのか?」
「いえ、想さんが他の支店からここに来たのが一年ちょっと前なので。」
「想さん?」
「あ、すみません。藤野さん、みんなに名前で呼ばれてるので、つい。」
北島がこれで気を悪くしたのをすっかり忘れていた。
だけど、課長と北島は違う。
「そうか。」
今だってただそう頷いただけ。
「名前もカッコいいな。」
なんて笑ってる。
うん、…だよね。
そんな課長は赤信号で立ち止まると腕時計に目を落とした。
「田上、今日はもう制服に着替えなくていいぞ。」
「え?」
「営業時間あと30分だから。出張届出てるし。」
「あ、はい。」
交差点の先には私たちの職場。
「たまには表から入るか。」
信号が青に変わって、歩き出した課長の後を付いていくと、デパートの玄関の自動ドアを抜けて一階フロアへ。
…私服で表からなんて、なんだか久し振りで新鮮。
何気にお客様気分?
「ほら、行くぞ。」
なんとなくキョロキョロしている私を先にエスカレーターに乗せると、ふたつ下の段に乗った課長は、
「田上は面白いな。」
と言って笑った。
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