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大瀧は神庭が差し出してきた手を握ることができなかった。
「あ、兄だとぉ…?」
「混乱するのも無理はないわな。お前が物心つく前に別れちまったから。」
大瀧の背後に母親の大瀧歩美が歩いてくる。その手は夕食の主食である唐揚げが盛られた皿を掴んでいる。
「夕飯にするわよ。雁真も早く手を洗ってきなさい。」
「い、いやいやいや!まずこの状況の説明をしろよ!」
「大雄は雁真のお兄さんよ。」
神庭の顔は確かに父親の大瀧詠一に似ていた。根拠はその顔にあり、しかし信用ならなかった。
「…………。」
大瀧は怪しみながらも渋々と手を洗いに行った。神庭は暫く国内に留まるので大瀧宅で寝泊まりするようだ。
夕食が終わった後に神庭は今まで旅してきた国々の話を始めた。アラブの王族を治療した話、「国境なき医師団」と共に貧困の村々を回った話、テロリストに拉致られた話などなど…
「テロリストに拉致られたってどういうことだよ!」
「いやぁ、大変だったぜ。国は俺達を見捨てて責任逃れ。あの時はマジで死ぬかと思った。」
「え、で、どうなったん?」
「そこに由衣と劉(みづき)が来てくれたんだ。」
「劉って誰?」
「俺の嫁。」
「ふぁっ!?」
「で、俺と由衣と劉でそのテロリスト共を倒したんだよ。」
「凄え!なんか色々と凄え!」
既に大瀧と神庭は意気投合していた。その姿に母親は安堵した。
神庭は客間に布団をひいてそこに寝ることになった。
奇妙な居候は大瀧家に長く住み着くことになる。
翌朝、大瀧家に折咲がやって来た。
「雁真君、おはよー。」
大瀧は勢いよくドアを開ける。
「おっはよーございまーす!」
そこに池谷が現れる。
「お早う、雁真君。兎龍君はあの後どうなったの?」
「吹っ切れたぜ。教室に行けば分かるだろ。」
三人は学校へと向かった。教室には海藤がいた。
「よ、雁真。」
「お、無事だ。」
海藤は明るかった。暗く静かな繋がりが目に見えて現れ始めた。
大瀧、斎藤、折咲、池谷、海藤の五人の繋がりはこのクラスの中で二番目に強い糸で結ばれていた。
その姿を川崎円が遠くから見つめている。
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