昼夜という区別と男女という差別

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人が手を挙げる。 人が泣き叫ぶ。 人が笑う。 人が死ぬ。 人がペンを持つ。 人が買う。 人が人を人に人から人へ人と人だが人である。 川崎円の頭の中で『人間』がどよめき合う。交差し、破裂し、分裂し、破壊の限りを尽くし、醜く歪んでいく。しかしそれこそが人であると知っていた。 その目に大瀧雁真と斎藤匠が映る。その二人もまた川崎にとって只の人間だった。 ヘッドフォンをして好きな音楽を聴いている川崎の夢を知る者はいない。 そんな川崎の前に一人の人間が立った。彼は震える手を握りしめて川崎の机の前で立ち止まる。 「ま、円さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」 池谷士銘は勇気を振り絞って川崎に尋ねた。その様子を横目でちらりと見る大瀧と斎藤の心臓の鼓動が速くなっていく。 川崎はヘッドフォンを首にかけて氷点下に近い冷気を感じさせる目つきで池谷を見る。 「何?」 池谷はだらだらと流れる汗を気にする余裕もなかったが要件を言った。 「あ、あの時。なんで僕に雁真君達の嘘をついたの?というより、どうして僕の家庭事情を知っていたの?」 「大瀧君達が私を尾行していたから振り切りたかった。池谷君はと同じ中学に通っていて、貴方の事はよく知っていたから。これで良い?」 「いや、もう一つ。円さんの『能力』は何?」 大瀧と斎藤に緊張のピークが来る。それは池谷も同じだった。 川崎は溜め息をついて二人の方を見る。 「それが知りたいなら大瀧君と斎藤君が私の下に来て直接聞きなさい。」 直後、緊張を通り越した大瀧は机を叩いて立ち上がった。 「じゃあ聞く。あんたの能力はなんだ。どうしてあのコートを知っていた。」 「コート?…あぁ、アレね。見覚えがあったんだけど違ったみたいだったわ。」 「何が違ったんだ?しっかり説明してくれ。」 「馬鹿ね。言いたくないからはぐらかしてるじゃない。鈍感男は女性に嫌われるわよ。」 「あぁ?なんだとてめえ!」 憤る大瀧を斎藤が腕を掴んで抑える。 「雁真が馬鹿で鈍感なのは生まれつきだろ。事実を言われて怒るんじゃねえ。」 「あ、そりゃそうか。っておい!」 川崎は鞄を持って立ち上がる。 「これ以上私に付きまとわないで。ストーカーとして訴えるわよ。…それでも、どうして昨日大瀧君が生き残ったのかは知りたいけどね。」 川崎は冷笑を浮かべながら教室から去っていった。
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