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四月の朝、沢山の人が街中の交差点を行き交う。
四月だから、という訳ではないが交差点の人混みはいつも以上の盛況振りに感じられる。その交差点から一人の若者が抜け出し、乱れたスーツとネクタイを整えた。
「あれ、鞄は?」
気付くといつの間にか鞄を無くしていた。若者は空を仰ぐ。若者が空を見てると四十代の男が見覚えのある鞄を持って走ってきた。
「あんた、鞄落としたよ!」
若者はその壮年男性から鞄を受け取る。手に持った感触で確かに自分の物だと分かる。
「ありがとうございます。あ、何かお礼を…。」
急いでポケットや鞄を漁る。それを見て四十代の男は両手を振る。
「いやいや、困った人がいたら助けるのが人間ってもんだ。」
若者は男の言葉に感動し、少し涙目になった。
「貴方みたいな人がいるからこの国はやっていけるんですよ!」
「いや、大げさな。それより、遅れるんじゃないですか?」
男は笑顔で若者から去ろうとする。それを若者は引き止めた。
「あ、すみません。あの、お礼といったら何ですけど忠告だと思って下さい。あと数百メートル歩いた辺りにあるマンションの頭上に注意して下さい。それでは。」
若者は男に変な忠告をした後去っていった。
男は首を傾げながら仕事に向かう。その道は若者と同じ道だった。
「あれ?一緒の道でしたか。」
二人は笑いながら一緒に歩く。数百メートル歩いた辺りでマンションが出てきた。若者は指をさして合図する。
「あ、ここです。道路側にズレて下さい。」
男は若者に言われた通りに動く。
すると若者に忠告された通り先程いた場所に植木鉢が落ち、地面でバラバラになった。
男は驚いた顔で若者を見る。
「あんた凄いなぁ。」
若者は少し照れる。
「前からこういうの得意なんですよ。」
「どこの会社に行くんだい?」
「会社じゃなくて学校です。彩徳(さいとく)高校の教師です。といっても今回が初ですけど、彩徳高校は。」
「じゃあ私と一緒だな!」
男は笑い、若者は慌てる。
「あ、あの!気楽に話してすみませんでした!」
「ハハハ!別にいいよ、あんたは命の恩人だしな。」
若者は照れ隠しに頭を掻いた。
「それより、あんた。名前は何て言うんだ?私は原田徹(はらだ とおる)だ。」
若者は胸を張り、原田を見て名乗った。
「笠松創(かさまつ はじめ)です。『創造』の創と書きます。これから宜しくお願いします。」
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