睡眠という概念と動作という時間

2/26
248人が本棚に入れています
本棚に追加
/2793ページ
翌朝、大瀧雁真は元気なく母親の自転車をこいでいた。 「あ、雁真。」 途中で笠松錐に会う。 「あ、錐。」 「後ろ乗せてよ。」 「今日無理。てか、俺も歩くかな。荷物カゴに乗せれば?」 笠松は言われる前に鞄を大瀧の自転車のカゴに入れる。 「元気ないわね。どうしたの?」 「いや、クラスの奴らが能力者って本当の話かよ。全っ然眠れねえよ。」 「理解できる方がおかしいのよ。」 「てか錐の能力って能力創んだろ。それでどの能力を持ってるかとか分かんねえの?」 「私は簡単なのしか創れないの。そんな簡単じゃないのよ。」 「ふーん、てかよ。ほんとに俺に能力なんてあんの?」 「だってお父さんと同じクラスでしょ?」 「いやそうなんだけどさぁ、実感ねーよ。」 「それもそうね。」 「ちなみに錐が能力持ったのっていつ?」 「二歳。」 「え、」 「あ、着いたわよ。」 笠松は学校に着くなり自転車から自分の鞄を持って大瀧から離れていった。 「二歳ってマジかよ…。」 大瀧は教師に注意されるまで正門で立ち止まっていた。 大瀧が教室に入って少し経ってから斎藤匠も教室に入った。 「よ、雁真…。」 「うぃーす…。」 二人とも明らかに疲労が溜まっていた。 斎藤は机に寝そべったまま周りの生徒を見る。 「皆、能力者ってか…。」 「んな事考えるからこんなにぐったりしてんじゃん。もういいんじゃねえの。」 二人がぐったりとしていると教室に折咲千鶴が現れた。 「おはよ、雁真君。」 「おっはようございまーす!」 大瀧は満面の笑みを折咲を向ける。斎藤は大瀧の変わり様に呆れた。 「どっから出てくんだよそのやる気…。」 斎藤とは逆に大瀧は元気である。 「千鶴ちゃん、一つ聞いていい?」 「うん、何?」 折咲も満面の笑みである。 大瀧はそのままの勢いで言った。 「千鶴ちゃんって超能力みたいなのある?」 横で聞いていた斎藤は思わず吹き出す。 「バカ!何聞いてんだよ!」 その時、斎藤はクラスの雰囲気が一瞬だけ凍りついたのを感じた。 そして折咲の顔も一瞬だけ歪んだ。 折咲は笑顔で大瀧を見る。 「何それ?おとぎ話?」 「分かんないならいいや。忘れてね。」 大瀧は前を向く。 その日はいつも通り何もなく終わる、筈だった。
/2793ページ

最初のコメントを投稿しよう!