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「紅葉、下がってろ。」
骨田の袖から何本もの針金がうねうねと這い出て宙を舞う。拓真はキョウとヒノデと天皇に分身を一体ずつ付けて骨田へ木製のブーメランを構えた。
「出た出た、ブーメラン。屋内で投げる気?」
「そうだよなぁ…。屋内で投げてもしゃあないよなぁ。だから、注意が逸れりゃいい。」
不意に、骨田の背後が歪む。それは透明化を解いた分身が現れたことで光の屈折が変化したからだ。
「遠藤、お前の常套手段はもう見切ってんだよ。」
『砂鉄の結界』が作動する。床にばら撒かれた砂鉄は質量を感じると自動的にその物体に纏わりつく。皮膚を食い破り、体内を掻き乱された分身は成す術なく消え、『燃える鉄釘』に変わった。
「その手は二度食わねえ。」
神戸港で『磁石』を作られて敗北したことを覚えている。砂鉄は釘を避けて領域を広げていく。
宙には針金、地には砂鉄。部屋内に拡散されるそれらは触れただけで体内を侵す。無生物であるが故に拓真の『地鳴り耳鳴り』も効果が無い。
拓真が四体の分身を作り、三体が残る一体の分身を天井へと投げる。
天井に到達した分身が巨大な石板となって床に落ちてくる。その床に潰された針金と砂鉄は、石板に纏うことができずに石板の下で蠢いていた。
石板によって視界が一瞬遮られたタイミングを見計らって、拓真がブーメランを骨田へ投げていた。『見せかけ』と認識していたブーメランの存在を意識から外していた骨田に、それを避ける思考は存在していなかった。
ブーメランが骨田の前で握られる。骨田の前に現れた金定武がブーメランを掴んでいた。
「おお、ここにおられたんか。天皇陛下。」
「げげっ、なぁんでお前ら、ここに飄々と入れんだって思ったら、武がいんのかよ。お前こっちの事情も汲めよ。」
金定が剽軽に笑う。
「無理や!無理!お前の命運もここまで…と、言いたいところやけど、今日の狙いはお前やない。後ろの御三方や。」
同時刻、玄関でメイドが左肩を押さえながら立ち止まる。三駒が伊立と土竜に銃口を突きつけながら歩いてきていた。
「隊長!二名を確保しました!」
片平が額の切り傷から流れる血を拭う。
「先に戻れ。ゆっくりでいい。」
刀に付いた血を払い、構える。
「そうだ。ゆっくりでいいぞ。それまでこの女は動けない。」
拓真が両手を上げる。守りながらでは難しい。大人しく、天皇とキョウ・ヒノデの三人を三駒に差し出した。
三駒は針金を手錠のように変形させてキョウとヒノデに填める。三人は静かに立ち上がって三駒に連れられて部屋を出た。
「いや待て。」
金定が三駒を止める。拓真は思わず舌打ちした。
「この状況なら、こいつ動けへんやろ。やっぱ拓真を殺そ。」
金定が右腕を刃に変える。拓真にも策が無いわけではない。が、最善策を必死に考える。
その時、金定が勝手に跪いたので、拓真は走った。
「ナイスだ!」
紅葉の隣に立つ女性の方は見ずに、拓真の手が金定に触れて彼の能力を分解した。
金定が紅葉の隣を睨みつける。紅葉の館への出入りを許された女性、『相田美幸』いや、今は『梶本美咲』という名前である。
拓真が部屋を出る。通路には既に、骨田と天皇達の姿は無かった。
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