雁真という少年と錐という少女

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4月5日。晴天なり。その晴天もカーテンを閉めきってしまえば気付かない。 「あー、だりぃ。」 制服姿のまま少年がベッドに仰向けに倒れている。学ランの襟元には彩徳(さいとく)高校の校章バッジが付いていた。 「学校サボろうかな。」 少年が本気で学校を休むと決意した時、部屋のドアが叩かれる。 「早く起きなさい。学校に遅れるわよ。」 母の声だ。思わず少年は舌打ちした。 「うっさい。俺は学校をサボるという決断をしたんだ。男の信念は曲げられない!」 少年が言い放った瞬間、ドアが真っ二つに斬られた。斬った張本人である母親は刀を収め、部屋に入ってくる。 「二度は無いぞ。」 「い、イエッサー…。」 冷酷な一声。少年は母に睨まれながらそそくさと支度を始めた。 「い、行ってきまーす…。」 少年の男としての信念は刀一つに負けた。その家の標札には『大瀧』と書かれていた。 家を出て気怠そうに自転車を漕ぐ。春眠暁を覚えず。春は寝る季節だ。 「だりぃー、ねみぃー、だりぃー。」 少年は少し考え、結論を出す。 「よし、サボろう。」 少年が自転車の向きを変えようとした時、誰かに頭を思いきり叩かれた。 「いって!誰だよ!」 少年が振り返った先には同じ高校の服を着た少女が立っていた。 「バカやってないでほら、早く行くわよ。」 「なんだ錐(きり)じゃねえか。」 「錐じゃなくて錐先輩でしょ。何様のつもり?私の方が二つ年上だから。」 「二つだけだろ。一緒に遊んだ仲じゃん。時間なんて関係ねえし。もっと視野を広げようぜー。」 「雁真(かりま)はもっと視野を狭めなさい。」 「けっ、説教される覚えはねえよ。」 錐は自分の鞄を雁真の自転車のかごに入れる。 「ん?」 「後ろ乗せて。」 「いいけど学校着く前に降りろよ。」 「大丈夫、そういうのないから。」 「あ、そ。」 二人は学校へ向かった。 少年の名は大瀧雁真(おおたき かりま)。大瀧詠一(おおたき えいいち)と島井歩美(しまい あゆみ)との子で現在高校一年生。 少女の名は笠松錐(かさまつ きり)。笠松創と片桐暦(かたぎり こよみ)との子で現在高校三年生。 この二人がこの物語の主人公である。
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