睡眠という概念と動作という時間

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踏切は聞き慣れた音を放ちながら赤く点滅し、黄色と黒の棒が大瀧と笠松の前に下りてきた。 「俺はちょっと離れとく。」 「待って。向こう側に誰か見えない?」 「は?」 大瀧は向かいを見る。 確かに誰か立っているようだ。 「誰だ?」 大瀧が目を凝らした時、誰かに背中を押される。 「…んむ?」 大瀧はよろけながら踏切の中に入る。 「…は?」 大瀧の背中を押したのは笠松錐だった。 笠松自身も驚いている。 「え、私そんなつもりじゃ…」 電車は勢い良く大瀧に近付く。 「じゃあどういうつもりだよ!」 大瀧は体勢を立て直さず、逆に地面を蹴飛ばす事で速度をつけた。 大瀧は間一髪隣の線路の上に倒れ、電車をかわす。 倒れた大瀧の目の前を電車が勢い良く通過する。 大瀧は身震いがした。 「あっぶねえ…。」 電車が通り過ぎ、大瀧と笠松は一安心する。 しかし、踏切の警告音は鳴り止まない。 「雁真!」 笠松の声で大瀧は横を見る。 反対方向から別の電車が迫っていた。 大瀧は立とうとするが腰が抜けて力が入らない。 大瀧は迫って来る電車を見つめる事しかできなかった。 視界が電車の光で白一面になる直前、大瀧の耳に聞き慣れた声がした。 「馬鹿やろう!」 踏切の向かい、今の大瀧側にいた人物は踏切の中に入って大瀧を外に出す。 大瀧はその時にその人物の顔を見た。 「匠!?」 その人物は斎藤匠だった。 「お前が呼んだんだろうが!」 大瀧は斎藤と待ち合わせをしていた事を思い出す。 斎藤は大瀧を踏切の外に放り投げたが代わりに斎藤が踏切内に残ってしまった。 「匠…」 大瀧が踏切内に手を入れた瞬間、電車は斎藤を巻き込んで大瀧の目の前を通過した。
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