睡眠という概念と動作という時間

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それはあまりにも唐突すぎた。 大瀧達は髪の長い折咲が現れた時、油断していたわけではないが、動く事ができなかった。 「…な、」 長髪の折咲が大瀧に向かって脚を振り上げる。大瀧はとっさに両腕で身を守ったが、蹴りの衝撃ではるか後方まで飛ばされた。 ようやく時が動く。斎藤の大声が風を切る体に届く。 「雁真!」 「大丈夫だ!」 返事はできたが、壁が無いこの空間で大瀧は数百メートル先まで飛ばされた。 斎藤が立ち上がり、長髪の折咲と短髪の折咲を交互に見る。髪の長さと目つきの悪さ以外に見分けがつかない。 「千鶴さんが二人!?」 【斎藤匠…殺す…。】 「これってヤバい!?」 標的は移る。長髪の折咲が斎藤に殴りかかる。 だが、その攻撃を斎藤は難なく避けた。 折咲が斎藤を攻め続けるが、一撃必死の攻撃を斎藤は欠伸しながら躱していた。 「俺こういうの得意なんだよね。なんなら落語言いながら避け続けよっか?」 斎藤匠という男は、攻撃には向いてないものの知力と直接的にも間接的にも危機回避力に長けていた。 痺れを切らした長髪の折咲が急に方向を変えて短髪の折咲に狙いを変える。短髪の折咲は突然の事態に未だ動けずにいる。 「千鶴さん!」 斎藤が長髪の折咲を止めに入る。鈍い音は遠くから駆ける大瀧に届いていなかった。 遠藤が気を失っている三人を仰向けに寝かせながら呟いた。 「後は雁真君と斎藤君に任せるしかないな。」 笠松創は右腕を造りながら遠藤を見る。 「なんで快が助けなかったんだい?」 「俺には折咲千鶴が能力を手に入れた状況が分からなかった。彼女はどこかで『死』を感じた筈だ。恐らく俺には分からない。彼らならそれが分かると思ったんだ。」 「でもその前に死んでしまう場合は?」 「創の生徒だろ。簡単に死にはしない。」 「まだ四日目だけどね。」 「雁真君は歩美さんと大瀧さんの子供だ。それに斎藤君の能力は応用がきく。それに気付けば充分彼女にも通用する。」 「その言い方だと快は斎藤君の能力に気付いているんだね。それに、その言い方だとあまり強い能力じゃない。」 「その通りだ。」 遠藤は眠っている三人の顔を見る。 「生きて帰ってこい。」 短髪の折咲は顔を歪めた。痛みでは無く、恐怖と現実逃避の弾みが歪みとなって外に現れていた。 長髪の折咲の右腕が、体を貫通していた。 「いやぁぁぁ!!」 長髪の折咲の右腕は『斎藤匠の体』を貫いていた。
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