睡眠という概念と動作という時間

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中学二年の秋放課後、いつものように親友、栗栖亮太(くりす りょうた)と帰る道での事だった。 二人は帰り道に通る公園に、住み着いている猫に餌をあげる事を日課としていた。二人は猫と仲が良かった。 だがある日、猫は死んでいた。 交通事故だろう。道路の真ん中で内臓を撒き散らしながら横たわっていた。 むせび泣く折咲の横で栗栖は猫を埋葬した。 栗栖の手が血で真っ赤になっていたことを今でも鮮明に覚えている。 折咲は栗栖の手に触れ、『死』がすぐ側で蹲っているのを感じた。 その日の夜、折咲が自分の寝室で目を閉じた後、自分の体が寒空の下にあるような感覚を得た。 夢か現かも曖昧な世界と意識の中で、折咲は目を開ける。 そこは一つだけの街灯が照らしている道の真ん中だった。そして、折咲の目の前には髪の長い自分が立っていた。 「誰?」 「私。つまり貴女。折咲千鶴。いつでも貴女を守ってあげる。だから、私も守って。」 「え?」 長髪の折咲が短髪の折咲の体に入る。そんな感覚を覚えた途端に折咲は自分のベッドで目を覚ました。 額の脂汗を袖で拭って息を整える。「これは悪夢だ」と、その時は夢にしか思わなかった。 一ヶ月後、折咲が栗栖に告白された翌日、夢に再び長髪の折咲が現れた。 【私が、守るから。】 長髪の折咲が微笑み、翌日、栗栖亮太が変死体として見つかった。 大瀧は折咲の話を静かに聞いていた。話終わったところを見てから、鼻を啜る折咲へ声を掛けた。 「んで、助けてくれたかもってのはどういう意味?」 「猫が死んじゃって、自分も暗かった時に私がやって来て守ってくれるって。それで心強くなっちゃって…。」 「よく分かんねえな。猫死んだのも自分のせいじゃねえし自分に守ってやるっつってもなぁ。」 「…見下してる?」 「いやさ、俺はあんま同情とかってしないんだよ。見下すとかさ、寒気すっからあんまし言うなや。そんで、千鶴ちゃん。最後はシメろよ。」 大瀧が折咲から視線を外して戦場を見る。直後、斎藤の下へ駆けた。 「匠、バトンタッチ!」 「話なげえよ!」 大瀧と斎藤が入れ替わる。大瀧が長髪の折咲と対峙する。立ち止まっている長髪の折咲に対して大瀧は不敵な笑みを浮かべていた。 「よぉ、化け物。」 【大瀧雁真…殺す…。】 折咲が拳を振るう。だが大瀧は折咲の攻撃を避け、折咲の顔を思いきり殴り倒した。 地面に倒れて呆けている折咲に言葉を吐きかける。 「なぁ化け物。喋れっか?お前、千鶴ちゃんを守るとか抜かしてるじゃんな。お前にとって『守』は『殺』なのか。」 長髪の折咲が起き上がる。その眼には殺意しか篭っていない。 【大瀧…雁真…。】 「殺すしか言えねえなら、もう黙ってろ。クソ殺人鬼。」 大瀧雁真が怒った。
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