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斎藤が荒げた息を整えながら短髪の折咲の横に座った。その眼に映る大瀧の闘志を見て、鼻で笑った。
「ああ、久々に動いたな。」
「ちょっと、助けなくていいの?」
「いいのいいの。今あいつキレてるから。ここでちょっかい出したら俺達も巻き添え食うぜ。」
大瀧は長髪の折咲をまるで赤子と戯れるかのように扱う。折咲の攻撃を避け、折咲が動く先でカウンターを食らわす。
「おらどうした。自慢の髪の毛むしり取ってやろうか。」
大瀧は折咲の頭を掴んで膝で鼻を蹴り上げた。
折咲は痛そうな顔をするが絶対に悲鳴を上げない。その様子を見て更に大瀧は怒り狂い、長髪の折咲を叩きのめした。
「てめえのその目つき見てるとイライラしてくんだよ!」
大瀧が数度深呼吸する隙を見て折咲が大瀧に殴りかかる。しかし大瀧は避けずに、更には攻撃の体勢もやめた。
「お前、俺を殺す気なんてさらさらねえだろ。」
折咲の拳が大瀧の眼前で止まった。折咲の眼が見開かれ、呼吸すらも一瞬消え失せた。
「目を見りゃ分かんだよ。殺意なんて全く感じねえ。お前はただ俺達を千鶴ちゃんから離したいだけなんじゃねえの?」
【大瀧雁真…殺す…。】
大瀧か溜め息をつく。
「それがまずいんだよ。んな風に脅すからマジで殺しに来てるように思われんだよ。もうそういうのいいから先ずは話そうぜ。」
大瀧は動かない長髪の折咲の肩を叩いた。
「もういいから、な。」
【触るな…!】
憤る声が聞こえる。突如、折咲が髪を伸ばして大瀧の体を絞めながら持ち上げる。大瀧の体に食い込んだ髪の毛は力を強めて大瀧を縛り上げた。
「がっ!」
折咲の髪の毛が大瀧の全身に食い込む。それでも大瀧は折咲に手を出すことをやめた。
「もう…やめろ…!」
「雁真!」
斎藤が大瀧に絡みつく髪の毛を必死に千切ろうとする。短髪の折咲も同様に必死に大瀧から髪の毛を離す。
長髪の折咲は目の前にいる折咲を見つめていた。
【どうして…?】
困惑は混乱に変わり、長髪の折咲が髪の毛を緩めた。大瀧はその場に倒れ、酷くむせる。
「ごはっ、ごほっ!」
「大丈夫かよ!?」
「大丈夫じゃねえよ…。マジで死ぬかと思った。」
三人が長髪の折咲を見て同時に『変化』を感じた。長髪の折咲は『涙』を流していた。
【どうして…?どうしてその男を助けるの…?】
二人の折咲千鶴が見つめ合う。
「友達だから。」
【なんで、私が守るって言ったのに…。】
「守ってない!あなたは私の友人を殺してるだけ!」
【私は、あなたを、守る為に、私は、守って、私を、守って…】
「嫌!もう止めてよ!」
長髪の折咲が動きを止める。が、直後、長髪の折咲はゆっくりと口を開いた。
【じゃあ、私も、死ぬ。皆も、死ぬ。皆、死ぬ。】
言い終わらぬうちに、長髪の折咲の髪の毛が短髪の折咲の全身に突き刺さっていた。
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