睡眠という概念と動作という時間

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二年前の春、公園に缶詰が置かれた。 猫は全く見向きもしなかった。何が入っているか分からない。どうせ碌なことにならない。 だが、公園には翌日も翌々日も新しくなった缶詰が置かれていた。 猫はとうとうその実行犯を見たくなり、いつもより早く起きて犯人を待っていた。 それは二人の男女だった。年は二人とも中学生程だ。少年少女は満杯の缶詰を見て肩を落としながらもレジ袋に入れ、袋から新たな缶詰を出して蓋を開けた。 怪しいものなど人工調味料以外に入っておらず、その様子を見ていた猫は、唐突に二人と視線が交わった。 彼らは猫を見つけると追いかけてきた。猫は急いで逃げ、土地勘の差で逃げ切ることに成功した。 翌日も翌々日も缶詰を持って来たのはその二人だった。 そうしたある日、猫が缶詰を遠くから見ているといつもの二人の内の男の方が缶詰を半分ほど食べ、その場を去った。 それを見た猫は安全を確認し、缶詰の中の食べ物を食べた。 日が経つにつれ、猫は缶詰に慣れていった。いつの間にか二人が来るのを楽しみにしていた。 猫は二人の下に現れることを日課としていた。 秋、猫はいつもと変わらず二人を待っていた。 その日に来たのは男一人だけだった。時間も遅く、日が暮れていた。 男はいつもと同じ様に缶詰を置いていく。缶詰からいつもと違う匂いがしたが、猫は気にせず食べた。 その後、夜になって猫は公園で寝そべっていた。 気持ちよさそうに寝ていると急に喉が乾き始めた。その喉の乾きは喉の痛みに変わり、体の痛みに変わった。野生の本能から缶詰に毒が入っていた事に気が付いた。 猫はその場から離れようと外に出た。 その時、クラクションと光が猫に迫り、車は猫をひいて去っていった。 車にひかれて尚、猫に息はあった。鳴こうとするが喉はただれ、声が出ない。 そこにいつもの男が現れた。男はナイフを持っていた。男は猫の腹にナイフを突き刺し、腸を裂いた。 「千鶴ちゃんは僕のものだ。」 猫はその言葉を聞いて絶命した。 何故か自分が埋葬される瞬間を覚えている。泣く女の横で猫を殺した男が猫を埋めていた。 猫の目線は次第に女の目線へと変わっていた。猫は女が眠った後、女の姿をして女の前に立った。 【私が…守るから…。】 男が女に告白した日、猫は女に自分と同じ境遇が起こるのではないかと思い、女が眠った後、女の体を借りて男を殺した。 その後、女に好意を持つ者には夢を見せ、翌日に女の下から遠ざけた。猫にとって男という者が怖く、力の加減が出来ずにその男を殺す自分が怖かった。 猫は女を守るため、自らを殺し、女を守る者が現れる人物を、男を殺しながら待っていた。
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