言葉という規制と指令という禁句

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ポツリと、雨の滴が鼻に当たる。矢継ぎ早に落ちてきた雨水は少年の頭上の庇に当たって中途半端な水溜りを作った。 少年が鍵の掛かっていない自宅に入る。 家の中は物音一つなく、屋内から生物の気配を感じなかった。電気を付けても見える光景はミニマリストの終着点のように閑散としていた。 少年は靴箱の上に鞄を置き、彩徳高校の制服を脱いでリビングにある椅子の背もたれに掛けた。 そのままの足取りで台所に立つと襟元のボタンを一つ開けて卵を持つ。作られたハンバーグは三人前だ。 湯気が立ち込めるハンバーグをテーブルに並べ、自分はフライパンを洗い始める。誰も席には着かない。 「できたよ、母さん、父さん。」 少年は気味の悪い笑みを浮かべていた。 猫の一件が終わり、翌日。折咲千鶴は大瀧雁真・斎藤匠の二人と打ち解け、心にいるもう一人の折咲千鶴とも心を通わせた。 また、斎藤は土日を使って万屋へ行き、遠藤快の指導の下で自分の能力の使い方を覚えていく。 4月12日、部活勧誘もラストスパートに突入した。 この日、大瀧達のクラスでは委員会役員を決める事になっていた。LHRの第一声は笠松創からだ。 「じゃあ先ずは学級委員から。誰か立候補はいるかい?」 学級委員とはクラスをまとめ、クラス行事を率先して指揮する係であり、男女一人ずつ必要とする。 笠松創が右手にチョークを持ち生徒の顔を見る。その手が動く気配は無い。無論、手を挙げる強者はいない。 「なら雁真君でいいね。」 黒板に『大瀧雁真』と書かれる。「おぉ」という歓声に揺らされて大瀧が目を覚ます。 「おいおいおいおいおい!待て待て!」 昼寝後の覚醒により立ち上がった大瀧は笠松に異議申し立てを訴えた。 「なんで俺!?」 「だって寝てたよね。それって自分でいいっていうサインだよね。」 「寝てたのはすまなかったっすけど流石にそりゃイジメっすよ!」 「イジメじゃなくてイジりだから教育上問題ないね。」 折咲が一人笑いをこらえている。が、あまり堪えられていない。笑って震える手で折咲は大瀧の肩を叩いた。 「ねえねえ、一緒にやろうよ。」 「えー…。」 「はいはーい、私やります!」 折咲が元気よく手を挙げる。笠松はニッコリと応えた。 「折咲さんやってくれるんだね。じゃあ後は男子なんだけど…かーりーまー君。」 大瀧が寝癖を掻く。頭はまだハッキリとしていないが、男に二言は無い。 「あー分かったよ!よっしゃ、やってやる!」 「じゃあ学級委員は決定だね。」 笠松が黒板に書かれた『学級委員』の横に折咲と大瀧の名を書く。その二つを見て折咲が大瀧に話しかけた。 「頑張ろうね、雁真君。」 笑顔の折咲とは逆に大瀧はうなだれていた。 「はぁー…。めんどい…。」 一方、斎藤は風紀委員になった。
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