雁真という少年と錐という少女

6/22

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/2813ページ
黒板の中央に書かれた『他己紹介』の文字。見慣れない、聞き慣れない言葉にクラス内がざわつく。 「タコ紹介?」 「他己紹介ね。ペアを作ってその二人で先ずはお互いに自己紹介。その情報をもとに今度は相方がクラスにペアの人を他己紹介する。じゃあまずは男女のペアになってね。」 クラスの人数は男子23人、女子19人の42人だ。丁度21組のペアができる。 斎藤と簡単に終わらせようとしていた大瀧は後ろの席に座っていた少女に肩を叩かれた。少女が大瀧の顔をじぃーっと見ている。 「ねぇ、ペアにならない?」 「ん、ああ、いいよ。」 「ありがとう。」 そう言って少女は満面の笑みを浮かべた。その表情に大瀧は一発でTKO宣言を受けたようなダメージを食らった。 (バラ色来たー!) 大瀧は精一杯のキメ顔をつくって手を差し伸べた。 「どうも、大瀧雁真です。何か困った事があったらいつでもお声をかけてください。自分、貴方の為なら火の中水の中、どこにでも行けるんで。」 「あ、ありがとう…。」 少女は明らかに困惑していた。 自己紹介により、少女の名前は折咲千鶴(おりさき ちづる)だという事が分かった。服織(はとり)中学を卒業。中学は吹奏楽部に入っており高校でも吹奏楽部に入るつもりらしい。チョコレートが大好きで学校外では板チョコをいつも携帯している。本人曰わく笑いのツボがおかしい(先ほどの大瀧の自己紹介で唯一笑いを堪えていた人物であった)。 「千鶴さん、俺って自己紹介いる?」 「もちろん。面白いし。」 「よっしゃ、じゃあ俺は大瀧…」 「はい自己紹介終了~。」 創が手を叩いてお喋りを止める。大瀧は全力で担任の方を向いた。 「おいっ!」 「え、まだ終わってなかった?でも雁真君はさっき皆の前でやったからいいよね。」 「生徒への気遣いは!?」 大瀧が創を睨みながら席に座る。 「いつか赤っ恥かかせてやる。」 「楽しみに待ってるよ。じゃあ一番前の席の二人から。」 出席番号順に他己紹介が始まる。創はその様子をまるで何かを見張るかのような目つきで見ていた。 このクラスの中で気軽に平然と話せた人は斎藤匠、折咲千鶴、そして大瀧雁真の三人『だけ』だった。 笠松創はこの三人をしっかりと記憶した。
/2813ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加