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二人は帰り道を歩く。笠松はポケットに手を入れながら歩いていた。
大瀧は笠松を小突く。
「なぁ、あいつ絶対嘘付いてるよな。」
「そうね。」
「それよりお前なんであの部屋を見たいと思ったんだよ。」
「彼が私達をあの部屋と遠い方に座らせたから。それに靴が親の分も出ていたから多分あの家のどこかにいたんだと思う。だから今から行くわよ。」
「は?」
「手を繋いで。」
笠松はポケットから右手を出す。
「早く。」
大瀧は左手を出し、笠松の右手を掴む。
「そのまま離さないように。この状態なら私達は誰にも見えない。」
笠松は池谷の家を出てから能力を作っていた。それは一日の限界である二つ。一つは自分達の影を極端に薄める能力、二つ目は壁をすり抜ける能力である。
二人は池谷の玄関の壁をすり抜ける。
「私はこれで今日の能力を使い切ったから何かあったら助けてね。」
「勿論だっつうの。」
二人は台所で池谷を見つける。
池谷は何もせず立ち尽くしていた。
大瀧は池谷の顔をまじまじと見つめる。
「やっぱこいつ変だぜ。固まってるみてえに動かねえ。」
「じゃああの部屋に行くわよ。」
二人は居間の奥に続く部屋に入った。
部屋は暗くよく見えなかったが、二人の見た物は同じだった。いや、物と言っては語弊がある。二人は者を見たのだ。
その者、二人は動いていたというよりは蠢いていた。
手足は縄で縛られ、二人は正座しており息を吸う時に肩が大きく動くのが遠目で蠢いているように見えていた。
大瀧は唾を呑む。
「なんなんだこれ…、人、なのか?」
その時、部屋の明かりが点いた。
池谷がプレートを持って部屋に入って来た。
部屋の明かりが点いた事でその二人の人物が年取った男女である事が分かった。二人とも表情に生気を感じなかった。
池谷は二人の前にプレートを置く。上にはハンバーグが置いてあった。
「召し上がれ、父さん、母さん。」
二人の男女はプレートに顔を突っ込みがむしゃらに口を動かす。
大瀧は目の前の人間の行為に吐き気を感じる。
池谷は微笑む。
「美味しそうで良かったよ。それで…」
池谷は振り返り、見えないはずの大瀧達を見つめる。
「帰ったはずの二人は何の用かな?」
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