雁真という少年と錐という少女

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他己紹介で今日の授業は終わった。帰りのSHRが終わり、大瀧が帰り支度を済ませる。 「じゃあね雁真君。」 「さよなら~。」 教室を出る折咲を大瀧が笑顔で見送る。斎藤は腑抜けた面の大瀧の頭を叩いた。 「痛っ!」 「何デレデレしてんだよ。」 「別にいいだろ。千鶴さんはマイハニーだ。」 「はぁ?」 二人が話している所に担任の笠松創がやって来た。 「二人とも、入学おめでとう。」 「あ、創のおっさん。酷くねえかよあの扱い!」 「アハハ、ごめんごめん。つい嬉しくてね。」 笑う笠松創と怒る大瀧雁真。『いつもの光景』に斎藤は安心感を覚えていた。 「創さんのクラスって案外気が楽ですよ。知らない人よりは嬉しいです。」 「それはありがとう。それと、君達も今日から高校生な訳なんだけど。今日から頼みがあるんだ。」 「え、嫌な予感しかしねぇ…。」 「今日から錐と一緒に帰ってくれない?」 大瀧の嫌そうな反応とは裏腹に斎藤は思い切りガッツポーズした。 「錐さんと帰るんですか!?」 「錐と帰んのかよ…。」 「それともう一つ。これは忠告なんだけど。」 創が声を潜める。自然と二人は担任に耳を近付けた。その耳に、担任の声とは思えないほど低い声が届いた。 「この学校は『呪われている』。錐と僕と君達以外は誰も信用するな。」 「え?」 「保健室の先生も信頼していいよ。それ以外は分からない。」 意味の分からない言葉の数々に、斎藤は思わず笑った。 「ちょっと、何脅してるんですか。高校初日からブルー入るの嫌なんですけど。」 しかし担任は表情を変えない。大瀧と斎藤の作り笑いが次第に青ざめていく。 「え、嘘、冗談だよね。」 担任の表情は緩まない。大瀧と斎藤は次第に恐ろしくなっていき、鞄を手に取っていた。 「じゃ、じゃあ今日は帰りまーす。ありがとござっしたー…。」 二人は急いで教室を出た。正門には仏頂面の笠松錐が待機していた。 「待たせちまって悪ぃ。」 「反省の様子が見られないから前宙してそのまま土下座してよ。」 「難易度高っ!」 「冗談よ。早く帰ろ。」 土下座を要求した時の笠松の目は本気だった。 帰り道、笠松は大瀧と斎藤をまじまじと見つめる。 「二人とも高校生かぁ。まだ子どもだと思ってたのに。」 「いやいや錐さん。時が経つのは早いですよ。俺なんかまだ黒ひげ危機一髪とかやってる…」 その時、笠松が立ち止まった。斎藤は二人を見る。 「ん?なんか俺マズいこと言った?」 その時、突然笠松が大瀧の自転車の後ろに乗って叫んだ。 「走って早く!」 笠松が叫ぶと同時に二人の自転車のタイヤがパンクした。 「うぉ!?」 三人が自転車から降りる。三人の目に、全身コートのフードを被った人物が映った。
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