雁真という少年と錐という少女

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斎藤は自分の自転車を見て嘆く。 「買ったばっかの俺の自転車がー!」 大瀧は斎藤の肩を叩く。 「おいおい嘆いてる場合じゃねえぜ。あいつ、春だってのにコートで全身を隠してやがる。絶対に頭のネジぶっ飛んでるぜ。」 笠松は辺りを見回す。近くに工事中止になった廃ビルがあった。 「あそこに逃げるわよ!」 三人は全力で廃ビルに向かった。 コートの人はゆっくりと三人を追う。 大瀧達は廃ビルの中に隠れた。午後五時なので中は日が差して明るいが、もうすぐ日が沈み始める為、長居はしていられない。 大瀧達は壁にもたれて座る。まだ中は作業用机や棚が置かれていた。 携帯の画面を見る。表示は圏外だ。 斎藤は地面を強く叩く。 「ったく、なんなんだよいきなり!」 「知らねえよ。今の所分かってんのはイカレた奴が俺達を追って来てるって事ぐらいだぜ。」 笠松は床を見たまま喋る。 「雁真、匠君。二人は超能力の類を信じる?」 しばしの沈黙が流れる。 「…超能力って念とかそういうヤツ?」 笠松は頷く。 二人は吹き出し、腹を抱えて笑う。 「んなのあるわけねえじゃん!あのコートに追われておかしくなった?」 「真面目な話よ。」 笠松は手袋をはめる。 「雁真、匠君。これからは言葉じゃ言い表せない事が起こるわ。前提にとらわれたら負け。分かった?」 「お、おぅ…。」 その時、廃ビルに誰かが入って来る音がした。 (来た…!) 大瀧は近くに落ちていた鉄パイプを拾って立ち上がる。 「ちょっと雁真!」 「ビビってる必要はねえだろ。野郎の顔見るまでもなくボッコボコにすりゃ死合終了だ。」 正面からガラスが踏まれる音がする。 「そこだー!」 雁真は壁の先から顔を出したコートの人間に鉄パイプを振り下ろす。 (ビンゴ!) 雁真の鉄パイプが相手の頭に触れる時、コートの中から無数の針が現れた。 瞬間、雁真を死の恐怖が襲った。 (何かマズい…!) 雁真は体をひねらせ、コートの死角に入る。 手に持っていた鉄パイプは穴だらけになっていた。 「なっ!」 コートの人物は雁真の頭を掴み腕を上げる。 「がっ…!」 「雁真!」 コートの中から針が雁真めがけて発射された。
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