雁真という少年と錐という少女

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大瀧は目を瞑る。 しかし、針は現れなかった。 大瀧は恐る恐る目を開ける。 斎藤はまだ大瀧に追いついていないにもかかわらずコートの人物は針を発射しなかった。 その間に斎藤は大瀧を救出し、笠松はコートの人物の頭を蹴り飛ばした。 フードが取れ、人物の顔が見える。二十後半の男だった。 三人は一気に男と距離をとる。男はすかさず針を発射する。 「冷静になりゃそんなもんいくらでもかわせるんだよ!」 三人は針をかわし続ける。後ろではガラスが割れる音がする。 「雁真、匠君。あいつは私がやるから二人は下がってて。」 笠松の言葉に大瀧は苛立ちを覚える。 「あ?ふざけんじゃねえよ。」 「おい雁真。言う通りにしておこうぜ。」 「こういうのは男の出番だろうが!」 雁真は一気に駆け出す。 「針なんざ余裕で避けれんだよ!」 「雁真!後ろ!」 大瀧は後ろを見る。 いつの間にか大瀧は四方八方を針に囲まれていた。 「なんだと!?」 大瀧は止まる事が出来ず、そのまま男へと走る。 全ての針が大瀧を襲う瞬間、大瀧は何かに背中を押され、倒れる。 針は大瀧の頭上を超え、大瀧にはかすりもしなかった。 「あっぶね!なんだったんだよ今の、は…」 大瀧は目の前の光景に目を見開いた。 そこには穴だらけになった笠松が立っていた。 「ほんと…言うこと…聞かない…んだから…。」 笠松は倒れる。 大瀧と斎藤は笠松の下に駆け寄る。 「おい…、寝てんじゃねえぞ。殺されかけてんだぞこっちはよ。おい、目ぇ開けろよな。」 「錐さん!錐さん!!」 笠松は応えない。斎藤は泣き出す。 (俺のせいか?俺があそこで突っ走んなかったら…。) 三人の様子を見て男は口を開く。 「一人の若者が友達を助けて倒れる。感動的じゃないか。」 「てめえ…!一体何者だ!」 「俺は命令されたのさ。雁真君と錐君を殺すようにとね。」 「俺達を殺す…?」 「突拍子もない事で驚いている所悪いが、時間がないんだ。大丈夫、あの世でゆっくり理解してほしい。」 大瀧は立ち上がる。 「よく分かんねえけどよぉ。一つ、たった一つだけ理解できたぜ。」 「何を理解したんだ?」 大瀧は男を指さす。 「てめえがヘドが出るほどのクズ野郎って事がだよ!」
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