二人の遊び

5/6
前へ
/40ページ
次へ
「阿弥、そんな顔できるんだ」 「え? 何がですか?」  振り返った阿弥は、普段通りの掴み所のない笑顔に戻っていた。  やや文も面食らう。  そこで、阿弥はポンと手を叩いた。 「あぁ、そうだ。それなら私は文を喩えるね。文は、なんか自由に空飛び回ってるから」 「え、あ、うん」 「まるで魚だよね」  文の目が思いっ切り丸くなった。 「……鳥、じゃなくて?」 「魚」  豪語されると、文は頭を掻く。  空を飛ぶから、どうしても魚には繋がらなかったのである。 「……なんで? というか、どういうこと?」 「だって、鳥は風がなければ、翼をあんなに忙しそうにばたばたしてないといけないんですよ」 「うん、まぁ、知ってるけど」 「でも、魚は自由。すいすい自由自在に上下前後左右。素敵だよね。文は空を泳いでるんだよ」  想像したら、文は何か自分が溺れている様な気分になった。 「……なんか、褒められてる気がしないなぁ。私一応翼で飛んでるし、烏天狗なんだし」 「魚天狗」 「なんか嫌」 「えー」  不満を伝える阿弥の言葉は、けれど笑顔から発せられ、少しも不満を含んでいる様には見えないでいた。 「と云いますか、それ本当に褒めてます?」 「褒めてるつもり」 「……本当に?」 「あははは」  文は不服そうである。  突き詰められると、それの真意に関わらず笑って誤魔化すのは阿弥の癖。だから、掴みづらくて仕方がない。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加