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「阿弥、そんな顔できるんだ」
「え? 何がですか?」
振り返った阿弥は、普段通りの掴み所のない笑顔に戻っていた。
やや文も面食らう。
そこで、阿弥はポンと手を叩いた。
「あぁ、そうだ。それなら私は文を喩えるね。文は、なんか自由に空飛び回ってるから」
「え、あ、うん」
「まるで魚だよね」
文の目が思いっ切り丸くなった。
「……鳥、じゃなくて?」
「魚」
豪語されると、文は頭を掻く。
空を飛ぶから、どうしても魚には繋がらなかったのである。
「……なんで? というか、どういうこと?」
「だって、鳥は風がなければ、翼をあんなに忙しそうにばたばたしてないといけないんですよ」
「うん、まぁ、知ってるけど」
「でも、魚は自由。すいすい自由自在に上下前後左右。素敵だよね。文は空を泳いでるんだよ」
想像したら、文は何か自分が溺れている様な気分になった。
「……なんか、褒められてる気がしないなぁ。私一応翼で飛んでるし、烏天狗なんだし」
「魚天狗」
「なんか嫌」
「えー」
不満を伝える阿弥の言葉は、けれど笑顔から発せられ、少しも不満を含んでいる様には見えないでいた。
「と云いますか、それ本当に褒めてます?」
「褒めてるつもり」
「……本当に?」
「あははは」
文は不服そうである。
突き詰められると、それの真意に関わらず笑って誤魔化すのは阿弥の癖。だから、掴みづらくて仕方がない。
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