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「いいなぁ、文は空飛べて」
「なんですか藪から棒に。また抱きかかえて飛んであげましょうか?」
「あれ恐いから嫌。文は空で手を離すし」
「涙目にさえならなかった人が良く云います」
二人が会話すると、不敵に笑う阿弥と、呆れながら肩を竦め笑う文の構図が良く見られる。
お互いがお互いをどう思っているのかを計れないまま、二人の距離を保ちつつ会話をしているのだから、変化は乏しい。
「さて、そろそろ帰って日記でも書きましょうか。今日も文との会話ばっかりで色気がないですが」
「何を失礼な……日記なんてしたためているんですか」
「えぇ、それはもう壮大かつ雄大で浪漫に充ち満ちた」
「嘘はいりません」
「実に平々凡々とした読み物に向かない内容の日記です」
文のツッコミが鋭くなると、阿弥の回答も正確になる。
こういう判りやすい扱いやすさが、文が阿弥の扱いを面倒に思わない理由になるのだろう。
これで会話は終わりという様に、阿弥はくるりと背を向ける。
それでもまた前を向き、ぱたぱたと手を振った。
「それじゃあね文」
「それじゃあね阿弥」
応じる文は小さく手を振る。
文の身長は変わらない。
阿弥の身長は随分と伸びた。
過ぎた年月は、事細かに思い出せないほど過ぎていった。
それでも二人は、出会った頃と変わらない位置にいた。
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