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「暇である」
阿弥は試しに尊大に呟いてみた。
実に楽しい。
ここに友人の一人でもいたら、もっと楽しかったに違いない。
しかし、孤独な中の楽しさは持続しない。
やはり一人では限界がある。
「……暇ー。気分が折れるー」
転生の儀をおこなう為のおこもり。決して疎かには出来ないとても大事な儀式。
それは判っているが、暇はどうしようもない。
何かを書こうと思うが、どうにも気が乗らない。行動を制限されると、こうも物事に手が付かないとは、阿弥は新しいことを学んだ。しかし少しも嬉しくはなかった。
「日記に儀式の事を細かく書いてもあんまり意味ないし」
読み返して面白くなさそうなので大幅に端折ることにした。
閻魔や死神に会うのはとても有意義で楽しいのだが、現世での儀式は三日に一刻の周期で延々と続く。儀式中に穢れを混ぜないという事で、まるで座敷牢に軟禁されているかの様な生活。屋敷を自由にうろつく事はできるが、外には一切出てはならない。
にこにこ顏に不満を一滴。姿勢を正して筆を手に取り、一分と経たずに寝転がる。
暇という全生命体の大敵は、か弱い阿弥を容赦なく噛み殺した。やる気が死んでいた。
「あー……こういう時には紫もちゃんと現れなくなるんだからなぁ。儀式中に妖怪と話しても別に問題ないわよ、とか言いながら来るかと思ったのに」
実際に紫が現れたら阿弥は困るし焦るのだろうが、来ないと判っているだけに好き勝手が言えた。
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