彼女のいない日常

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「何か、ご用でしょうか?」 「い、いえ、すみません。」 綺麗な黒髪と、甘さ控えめの顔立ち。 思わず間違えそうになる外見は、俺の心臓を忙しく動かして、ギュっと掴むように締め付けてくる。 明奈じゃない。 だけど、すごく似てるんだ。 「……そんなに驚かないでください。僕の方がビックリしていますから。」 やんわりと微笑んで見せるけど、本当はその真逆。 まるで明奈と話しているような錯覚に陥りそうになって、平静を保つために取り繕っただけ。 「あ、あの……日本語お上手ですね。」 「僕は日本とフランスのハーフなので、日本語は得意ですよ。…何かお困りですか?」 「特に困ってはいません。 ……あ、このカフェが空いている時間は何時ですか?」 「ここは人気があるので、明るい時間はいつもこんな感じです。 でも夜になると、少し空くかもしれませんね。」 人見知りをしない感じも、堅苦しくない程度の丁寧な話し方も、真っ直ぐ見つめるその瞳も、本当に明奈みたいだ。 「良かったら、お名前を教えてください。 僕は、美馬 christophe 涼です。」 偶然隣り合った席に座ったことで知り合った女性に、スッと手を差し出して、握手を求める。 「高梨 彩星と言います。」
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