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明奈と離れて、1年も経ってから日本に会いに行って、結局会えず。
それでもまだ彼女のことを忘れられず、思い出す日もなく。
そんな毎日を何日も過ごして、気付いたら既に3年も経った。
ズルズルとずっと好きでいるなんて、気持ち悪いと母親に言われるのも納得だけど、嫌いになれないんだ。
だけど、これは何かの罠なのだろうか。
明奈によく似た女性と出会うなんて。
「彩星さん。素敵なお名前ですね。こちらへはバカンス……ではなさそうですね。」
テーブルの上のペンケースは、仕事中の雰囲気だ。広げられている手帳も、予定がびっしりで忙しくしている人なんだと分かる。
「僕のことは美馬じゃなくて、涼と呼んでください。
日本にいる友達は、みんな僕のことをそう呼んでくれるので。」
彩星さんから、視線を外してパソコンを閉じた。
「また会えたらいいですね。彩星さん。」
差し出した名刺を受け取ってくれた彩星さんが、柔らかく微笑む。
「あ、ありがとうございます。」
「それでは、また。素敵な夜を。」
余裕ぶって、微笑みを返して席を立った。
素敵な夜を、って……柄でもないくせに良く言うよと、自虐的に突っ込んでみる。
明奈のことを忘れられる恋は、他にあるはずだ。
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