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「モデルさん?」
「…え?」
並んで座る山城くんが、私の手元に視線を投げている。
開いている手帳に挟んだ1枚の写真。
「すっごい綺麗な瞳だね。」
「そうでしょ!彼ね、私ごと吸い込んじゃうくらいに綺麗な瞳をしていて、とても穏やかなのに芯があって、スタイルもいいし、仕事も出来るしお洒落だし…」
「ふぅーん。」
山城くんの反応で、私はハッとした。
大好きな美馬さんの瞳を褒めてくれたから、ついつい嬉しくてペラペラと話してしまった。
「ち、違うの。モデルさんだよ、モデルさん!」
「ふぅーん。」
「もう、何よっ。」
「逆ギレとか、もう流行らないよ?いいじゃん、イケメン好きなのは隠すことじゃないし、それに彼氏だとしたら尚更。」
手帳からひらりと摘み出された写真が、山城くんの手に渡った。
「ちょっと返してよ。」
「会いたいとか、そういう感じ?」
「え?」
抑えたトーンで話し込んでいたけれど、山城くんが指先だけを2回曲げて、私をさらに呼び寄せている。
「うわの空の原因って、この人?」
うわ……直球のストライク。
こういう時って、素直に肯定しちゃえばいいのかもしれないけど、なぜか私はそうだと言えなくなる。
肯定したら、心の蓋を突き上げて、気持ちが吹き出してきそうなんだもん。
もう止められなくなるって、分かってる。
「会えるかもしれないじゃん。うわの空じゃ、パリの街で見つけられないぞ?……頑張れよ。」
iPodにイヤホンを挿して、山城くんは再び自分の世界へと帰っていった。
私の手元には、美馬さんの微笑み。
その隣で同じように微笑む私。
写真の中と同じ穏やかな時間を、私はもう1度取り戻せるのかな。
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