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明奈に似た彩星さんに、いつの間にか気持ちを重ねていた。
そう気付いたのは、日曜の昼下がりに買い物をしていた時、友人と一緒に楽しそうにしている姿を見かけた時のこと。
彩星さんは、明奈じゃない。
分かっていても、懐かしさに愛しさの混ざった視線を、彼女に向けていた。
彼女の薬指には、決まった相手がいる証があって、俺の立ち入る隙なんてないと知っていても、やり場のない気持ちの居場所を探してしまう。
仕事が予定より早く終わった。
一層激しく、傘に体当たりしてくる雨粒で濃く滲む革靴のつま先。
通りを歩く人たちは、一斉に屋内に入って、予報より強い雨をやり過ごそうとしている。
見つけた人影は、風に流された雨霧でよく見えないけれど、女性だということは分かった。
傘も差さずに力無く歩く姿に、不安が過る。
「彩星さん?…………彩星さんっ!」
間違いなく、その女性は彩星さんだ。
まさか2回目に会うのがこんな日だなんて。
通りを渡って近付くと、全身が完全に濡れていて、綺麗な肌に雨粒が転がっていた。
「どうしたの?!……傘も差さずに…。」
ハンカチで拭ってやると、彼女は縋るような瞳で俺を見つめ返してきた。
なにがあったのかは分からないけれど、とりあえず悲しそうなのは表情で明らかだ。
「……もう、大丈夫だから。」
としか、言えなかった。
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