4375人が本棚に入れています
本棚に追加
帰宅して、濡れたジャケットをハンガーに掛けた。
革靴とバッグを丁寧に拭いて、風を通す。
ソファに座って、携帯と睨めっこするように黙っていると、壁時計の秒針が1秒ずつ刻む音が聞こえた。
3年分だ。
この音が3年分積み重なって、今に至る。
俺の気持ちは変わりなく明奈に向いているけれど、彼女はどうだろう。
それを考えても答えなんか出るはずはないのに、この作業を幾度も繰り返してきた。
もう、終わりにしよう。
こんなにも進まない状況は、プラスじゃない。
少し間を置いて聞こえたのは、アナウンス。
勝手に喉が上下して、すぐ後に続く言葉に耳を澄ませる。
〈おかけになった電話は電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないため掛かりません。〉
終話を選んで、俯く。
目を瞑ると、フローリングに涙が零れた。
良かった。連絡先、変えてなかったんだ。
こんな単純なことに、3年も費やしたなんて本当にバカだと思う。
だけど、3年分積み重なって、本物になった気持ちなんだ。
話せるのがいつなのか分からないけれど、伝えようと思う。
迎えに行ってもいいかな?
明奈、君のことがどうしても好きなんだ。
どんな答えをくれるかを気にしても意味がない。
この3年を無駄にしないために、俺は動こうと思う。
最初のコメントを投稿しよう!