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1日置いて、再び携帯と睨めっこをする。
一昨日から、決意は変わらない。
使い慣れたカフェテリアは、夏場になって空調のある屋内よりも外の風が緩やかに流れるテラスの方が人気だ。
はっきり言って、フランスのコーヒーは美味しくないと思う。日本で飲んだコーヒーは数倍美味しかった。だけど国民性なのかコーヒーを飲むことは多い。
土曜の午前中だから、日本は夕方だ。昼寝でもしてなければ、気付いてくれるだろう。
決意が鈍らないうちに、リダイヤルから選んだのは、手塚 明奈の名前。
呼び出し音がプツッと途切れて、受話器の向こうの時間と繋がった感覚を鼓膜で感じた。
「……Bonjour.」
聞こえてきたのは、なぜかフランス語。それも男性の声だ。
「すみません、手塚さんですか?」
俺は敢えて日本語で返した。この携帯が明奈のものなら、日本語でも対応してくれるはすだ。
「……少々お待ちください。すみません、どちら様でしょうか。」
「美馬と申します。手塚さんにそう伝えていただけたら分かるはずです。」
誰なのか分からない男性。
だけど明奈の携帯に出るということは、それなりの関係なのかもしれない。
ここで諦めるのも1つだけど、節目を大切にしたいと思うから、俺は振られる覚悟で彼女が通話口に出るのを待った。
よく晴れた空の下。
俺の恋は、どこへ向かうのだろう。
通りの向こうを歩く男性と、明奈の姿が目に飛び込んできた。
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