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「うん、そうみたいだね。明奈、通りの向こうを見て。」
それを知っていると伝えるか一瞬悩んだけれど、これはチャンスだと思った。
自分の居場所を告げると、俺は椅子から立ち上がって空いた手を挙げる。
「どうしてパリに?」
「仕事です。」
近寄ることなく、携帯を通して話すけれど、視線はお互いを捉えている。
「いま、仕事中?」
「うん。」
「じゃあ、時間見つけてこの番号に連絡して。会いに行く。」
「……はい。」
俺ばかりが話してしまった感があるけど、付き合っていた頃もこんな感じだったと懐かしくなる。
どこかに姿を消していた男性が戻ってきて、明奈と去って行く。
仕事中だと言っていたから、恐らく同僚で出張仲間なのだろう。もしくはパリ本社の人間かもしれない。
そのどちらかなら、必要以上に心配することもないけれど、どうして明奈の携帯に彼が出たのか、それだけが気になって仕方ない。
横断歩道で信号待ちをしている後ろ姿を見つめる。
車道が停止を知らせて、歩道が進行を伝えた瞬間、明奈は振り返って俺に手を振った。
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