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丸いテーブルを囲む、この時でさえ二度と叶わないと思っていた瞬間だった。 「仕事は順調?」 「はい、とても。美馬さんは?」 「おかげさまで、僕も。」 ふんわり微笑むその表情に、止まっていた時間が確実に動き出した気がした。 無くしたと思っていた恋が、まだここにあるんじゃないかと思えた。 「パリはどう?」 「初めて来たので、全てが素敵で日本と比べちゃいます。」 「そうか……僕も日本に行った時はそうだな。何度か行ったことはあるけど、その度に比べてはパリにもあったらいいのにとか思うよ。」 「例えば?」 「うーん……そうだなぁ。東京タワーかな。」 「エッフェル塔があるじゃないですか。」 「エッフェル塔は、東京タワーとは違うよ。あの雰囲気は出せない。心を寄せたくなる感じがするんだ。」 「落ち込んだ時に、東京タワー見て、頑張ろうって思えたり…とかですか?」 「そうそう。」 注文した食事を味わいながら、久々に話す彼との時間はあっという間に過ぎていく。 この時を手に入れるまで3年かかったのに、どうして今はこんなにも駆け足なんだろう。
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