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「私は……仕事漬けでした。慣れないことも多いし、毎日のように課題はあるし、フランス語も覚えないといけなくて……あ、仕事だけってわけじゃないけど、でもあっという間だったのかな……体感ではすごく長かった感じなのに、記憶はあっという間に感じます。」 「そう。頑張ったんだね。」 うんうんと頷きながら、彼が同調してくれるだけで、報われる気持ちがする。 社会人になってから1番辛くて、1番得るものがあって、最も切なかった。 どんなに頑張っても埋まらない場所が身体にあって、それは他の何も代わりにならなくて痛かった。 ………私、頑張ったよね。 「次は、いつ来るの?」 「次、ですか?」 ワイングラスを片手に、美馬さんが私に問いかけた。 次は、分からない。だから、いまこうして時を共にしている。 「もし未定だというなら、考えがあるんだけど、聞いてくれないかな。」 真剣な表情と、柔らかな口調。 真っ直ぐな視線の先には私がいる。
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