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「とても単純な理由で恥ずかしいんですけど……化粧品が好きだから選んだんです。」
本当のことだけど、言ってから改めて何て単純なんだろうと思った。
「いいじゃないですか、好きなものに囲まれてお仕事をするなんて。」
デザートで付いてきたアイスと焼き立てのワッフルをナイフで切り分けながら、美馬さんが答えてくれた。
「美馬さんは?」
「僕は、どうしてかと聞かれたら一言では言えないのですが。元々向こうにいて、どうせ就職するなら大きい舞台がいいって思って…それで、かな。」
「そっか……フランスはパリにいらっしゃったんですか?」
「えぇ、パリです。セーヌ川とか美術館の近くです。」
「素敵ですね、行ってみたいです。」
「いい所ですよ、パリも。」
「日本と比べたら、どちらが好きですか?」
「今は……こっちかな。」
柔らかい笑顔が返されて。
思わずハッとしてしまう私は、気持ちを隠すのが下手だと思う。
まだ知られたくないって散々思っているくせに、美馬さんの一々にこうして反応してしまうんだから。
「明奈さん、1つご提案です。」
「あ、はい。」
提案、なんてプライベートの会話でなかなか使わないから、美馬さんの言葉の選択が面白くて、自然と表情が微笑みに変わる。
「僕のこと、名前で呼んでもらえませんか?それと話し方も、もっと砕けてもらった方が話しやすいかな。」
「名前で、ですか。」
「えぇ、僕はChristophe 涼なので、涼で。」
「涼さん……。」
「ふふっ……あ、いや、ごめんなさい。呼んでくれと言ったのは僕なのに、いざ呼ばれたら照れるものですね。」
手を軽く握るような格好で、鼻の下に当てているその仕草もまた、私を夢中にさせていく。
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