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「わぁっ。」
お礼と次を楽しみにしていますって、メールを作って送信しようとしたら。
「何、どうしたの?」
煙草に火を点けようとしていた皐月の手が止まった。
「電話、来た。」
「誰から?」
「み、美馬さん。」
「早く出なさい!」
なんでこうアタフタしちゃうんだろう。
今までの恋と、何が違うんだろう。
ドキドキしてきたことだってあるのに。
「も、しもし…。」
何事もなく、普通に出ようとすると、余計に上がってしまうのも私の癖。
「あ、明奈さん?涼です。」
ついさっき約束したお互いの呼び方を、早くも自分のものにして実践できている美馬さん……涼さんの声が、また私の事をデート直後のタイミングに戻す。
「はい、どうされました?」
「あ、いや…どうってことはないんだけど。今日はありがとうって言いたかっただけで。」
「あ…すみません、お礼が遅くなってしまって…。実はいま友達とお茶しているんです。」
そう言って皐月を見ると、本当は聞いているはずなのに、全く無関心を装って彼女の携帯に集中している様子。
「メールにした方が良かったですね。ごめんなさい。」
「いえ、そんなことないです。あのっ……。」
「…はい。」
何か言わなくちゃって思っていて、でも何を言うかなんて考えていなくて。
これっぽっちも動かない、頭の中の語彙の引き出し。
こういう時にこそ、今までの恋愛を生かすところだって、分かっているからなおさら焦るんだ。
「あのっ……でも、声が聴けて…嬉しかったです。」
言ってから、自分の言葉に自爆したように熱くなる顔。
携帯に視線を合わせていたはずの皐月が、驚いた表情をした後に微笑んでくれていて。
焦ってしまうと、ロクな言葉が浮かばない自分が嫌になる。
だって、ほら……何も返してくれない。
早く何か返してほしい。
きっとこの空白の時間は、大したことない長さなのかもしれないけど。
スローモーションで世の中が動いているような錯覚さえ覚えていく。
「そんなこと言われたら、会いたくなるでしょう?」
「……っ。」
思わず息を飲み込んだ、美馬さんからの言葉。
心臓が、止まるって……こういうことなんだって、知った。
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