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「明奈さん?」
背中の方まで引き込むように大きく鳴った鼓動が、そのまま止まっていた私。
「はい……。」
「そこで黙るなんて、明奈さん狡いなぁ。」
「え、そんなことないです!」
だって、それはきっと誰が聞いても、私よりも美馬さんの方がそうだと言うはずで。
「会いたくなってしまったけど、今度を楽しみにしていていいですか?」
「私の方こそ、そう思っていますから……だからっ。」
頭に浮かんだ言葉は、勇気を必要とする言葉でもあって。
でも言ってしまえば、すぅっと心が軽くなるって知っているから。
「だから……連絡してもいいですか?」
「勿論。こちらからも連絡します。」
デート中に言われた次の約束は、口約束のままだけど、なんとなく確実なものに近付いてくれたような気がする。
会話の終わりを示す言葉を口にして、私はテーブルに突っ伏すように崩れた。
「随分と大きいリアクションですこと。デート中は一体どうしてたのよ。本人目の前にしてないのに、そんな崩れるなんて。」
「だって……。」
子供みたいな切り替えしをしてしまうけど、それを許してくれるのは皐月だからだって、自分を甘やかす。
今日の私、結構頑張ったから。だから、ご褒美なんだ。
「だって、何?」
「電話切る時に……。」
「告白でもされた?」
「されてないけど。」
もったいぶるつもりはないけど、それを報告するのが恥ずかしい。
でもそれは、まだ皐月には伝わっていないようで、単に私が悶えている状況だと思っているみたいだけど。
「おやすみなさい、って言われて。」
「さすが紳士的ね。またね、みたいな言葉じゃなかったのね。」
「うん。でもその後に…。」
言いかける私を待つ皐月は、相槌を沈黙に切り替えた。
「されたの。電話越しの……キス。」
私の耳を熱くさせて、擽って。
頭の中でその音がエンドレスに響いてて。
他の男性(ひと)なら、似合わないかもしれないそれが、美馬さんには似合ってしまうから。
緊張が止まらないくせに。
私の方が……早く会いたくなった。
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